生来の歪んだ体に、引きずって歩く足。
だが知略に富み、機を見るに敏な男。
城内から終盤の戦場まで、各所の空間を
広く上手に使う撮り方が、舞台人らしい。
これだけ恵まれないと笑うしかないな、と言っている本人も実は他者の痛みなどまるで感じてない、という逆説的な物語。
冒頭、リチャードが冠を召使に預け、召使が落っことすところ。場面の変わり目でさりげないのですが、いきなり笑ってしまいました。
シェイクスピア劇って台詞の量が多く、一歩間違うと会話ばかりになり、観る側を飽きさせてしまいます。オリヴィエもそこはよ~く知っていて、映画用に台詞を、可能な限り削り、あるいは順序を入替え、空間や表情、そして心地よい沈黙とも言うべき間をうま~く織り込んでいる。
「敵役であり主人公でもあり道化でもある恵まれた役」、とはオリヴィエ自身のリチャード評。
終盤には、屋外ロケへ。それまでの城内中心の密室劇から、実に広広とした空間に移る、こういったところに垣間見られる、空間の広がりの上手な使い方、舞台人の彼っぽい特色です。
ボズワースの戦い。葬られた者達の亡霊、有名な「Despair and die」の場面、そしてヘンリィⅤを思い出させる野戦シーンへ、やはり躍動感があります。遠近感の使い方が巧い、奥行きを感じさせる。
「ヘンリィ」では英雄だったオリヴィエは本作では、まさに正反対のリチャード。同じ暴君でもマクベスと違うところは、罪の意識がなく、笑いを誘うほど滑稽で、ひたすら三枚目なところ。知略に富み、機を見るに敏、マクベス夫人的伴侶もいない、人から愛されない。芯まで悪。散り際も悪党らしく因果応報、実に清々しいほどの格好悪さ(笑)。なるほど、一流の俳優が皆、演じたがるわけです!愛すべき異形の悪党、ここに極まれり。