さあ、飛んで来い。飛べ。
風の声に力をもらい、音のない世界に飛び立つ。
憧れの存在理子ちゃんに誘われ
さつきは未知の世界へ踏み出す
「しゃりしゃり、ざぁー、ごうっ」
小学生ジャンパー理子が飛ぶ凛々しい様子を、同級生さつきが近くで初めて体感した時の、描写です。
音が、耳に、聴こえてくる。音にけっこう敏感な僕は、瞬時に引き込まれました。
著者、乾ルカさんの描写は、音や動きに満ちていて、そしてどことなく愛らしくて、魅了されます!
本作は、2014年に読んだ現代小説で、内容も直球で、なかなか面白く、表現も豊かで、またちょうどソチ五輪の時期にぴったりで、また自分にとって為になった一作でした。こういう苦しみがあるのか、と。
苦しみとはずばり体形変化なのですが、詳しいことは、皆さまご自身がお読みになってからということにいたしまして、印象に残った表現を取り上げます。
ジャンプ、ワンピース、と聞いて、コミックをエコバッグに詰めこんで出かける語り手のヒロイン、さつきちゃん。この勘違いがまた、なんとも身近で、とても微笑ましくて、でも本人はおそらく大真面目で、僕は笑いつつ、心がなごみました。
私自身、微妙な年代に位置するものですが、すみません、ワンピースのことはあまり詳しくなく、素直にスキーのジャンプと、女性の服装を思い出してしまいました。スラムダンクあたりからもう分からないのです。北斗の拳くらいまでですね。ドラゴンボールでさえ途中くらいまでで。
この本の題名「向かい風で飛べ!」には、ジャンプ競技そのもののことだけでなく、別の意味も隠されています。逆境に負けるな、風当たりが強く感じても、そこで羽ばたいてみて!きっとできるよ!というメッセージ。
前半はさつきちゃんの視点から見る理子。
前半を読んでいると、さつきちゃんと理子ちゃん、どちらが主役なのだろう、と考えながら読んでいました。
ところが後半は理子ちゃんからみるさつきの姿と自分自身、という語り口に変化します。
爽快だった展開が驚くほど変わり、視界が、世界が、さーっっと広がります。
完全無欠に思えた理子ちゃんが、大きく変化を見せる。真の主人公は彼女ですね。
とてもとても、何だか切ないけど、女子の誰しもに起きること。
体に異変が起きた理子さんが抱える不安、感じること。
男女を問わずこういう時期があり、でも、男子の場合、声変りを始めとする、男になってゆく漠然とした不安があっても、間違いなく筋力などは飛躍的に伸びてゆくわけです。
では、女性はどうなのか。
この急速展開、実に見事です!
タグ: 本